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東京地方裁判所 昭和37年(むの2)837号 判決 1962年10月16日

被疑者 保ケ辺栄一

命  令

(被疑者氏名略)

右の者に対する詐欺被疑事件について、昭和三七年一〇月一四日東京地方検察庁検察官検事菅原弘毅より右被疑者の勾留の請求があつたので、当裁判官は次のとおり命令する。

主文

本件勾留請求はこれを却下する。

理由

被疑者に対する本件勾留請求に関する記録、被疑者に対する昭和三七年九月二八日付は勾留請求にかかる有価証券変造、同行使、詐欺被疑事件(以下これを前件という)記録、当裁判官の警視庁綾瀬警察署司法警察員警部馬場明に対する電話聴取書および本件勾留質問における被疑者の供述によると、被疑者の前件につき昭和三七年九月一九日前記司法警察員馬場明の逮捕状請求により同日足立簡易裁判所裁判官より被疑者に対する逮捕状が発布され、同月二七日被疑者は逮捕され、同月二八日東京地方検察庁検察官より勾留請求がなされ、翌二九日当裁判所裁判官より勾留状が発せられ、さらに右検察官の同年一〇月六日付勾留期間延長請求により同月七日当裁判所裁判官によつて同月八日から同月一二日まで勾留期間を延長する裁判がなされて、同日まで前件につき捜査がなされたことが窺われる。

従つて、いまだ前件捜査中であつた昭和三七年一〇月九日前記司法警察員馬場明より足立簡易裁判所裁判官に対してなされた本件被疑者に関する詐欺被疑事件の逮捕状請求書には刑事訴訟規則第一四二条第一項第八号に則り、被疑者に対し現に捜査中である他の犯罪事実(前件)について前に逮捕状の請求およびその発布があつた旨ならびにその犯罪事実を記載すべきであるにかかわらず、なんらその記載がなされていない。

およそ、逮捕状請求書に右刑事訴訟規則第一四二条第一項第八号所定の記載が要求されるのは、逮捕のむしかえしによる逮捕の濫用を避けるについて、裁判官の判断に重要な資料を提供させるためのものであつて、右事項記載の有無は裁判官の該判断に重大な影響を及ぼすものというべく、右所定事項の記載を欠缺した逮捕状請求手続は重大かつ明白な瑕疵があり、従つてかかる違法な逮捕状請求手続により発せられた逮捕状に則つて行われた逮捕手続もまた違法なものというべきである。

よつて本件逮捕手続は違法であり、これを前提とする本件勾留請求は到底認容することがないので、これを却下することとする。

(裁判官 簔原茂広)

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